マイノリティ・センス

自閉スペクトラム症の個人的な表現・分析(聴覚過敏多め)

スイレン

2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

開通―コミュニケーションの封鎖が解かれるまで― 1 話しことばの意味が消えた

「○月×日に診察した分が、資格取得日に入っているかどうか……」 病院の事務員が難しい顔で呟いた。 ○月×日の三週間前、ある事情によって保険証の資格を喪失した。継続して使えるようにしなければならないが、今は手元にない。病院で診察を受けた後、その事情…

〈定位〉から考える聴覚過敏13 まとめ 能動的構え

ほかの聴覚過敏の原理に当てはまるかどうかわかりませんが、私の聴覚過敏においては、まず定常位置の転覆を驚愕する心があり、みずからの定常位置へ同化/異化する選別作業としての摩擦と刺激が多くなっている様子をみてきました。その選択の前段階としての…

〈定位〉から考える聴覚過敏12 刺激に意味を求めるか否か

「音の意味」がわからないとはどういうことでしょうか。 意味とは、価値・重要性・意義という意味を除けば、「記号(特に言葉)の表す内容」「ある表現や行為によって示される内容、特にそこに含み隠されている内容」(明鏡国語事典)です。つまり、表現や行…

〈定位〉から考える聴覚過敏11 火に油を注ぐもの(2) 音の意味

「気分」とともに「音の意味」もまた聴覚を過敏にさせる要因になります。「音の意味」がわからなければ「不安な気分」になるし、「不安な気分」が高じれば「音の意味」がますます聞きとれなくなるという悪循環が生じます。こうした不安が音の聞こえ方を変化さ…

〈定位〉から考える聴覚過敏10 火に油を注ぐもの(1) 不安

聴覚を過敏にさせる3つの要素「調整」「気分」「音の意味」のうち、「気分」「音の意味」といった心理的な問題が聞こえ方に与える影響ははかりしれず大きいものがあり、無視することはできません。 選択的注意ができないというだけで、「火に油を注ぐもの」…

〈定位〉から考える聴覚過敏9 こだわる固体の固着とこだわらない気体の流動

なぜこれほど刺激に反応しなければならないのでしょうか。 感覚過敏のイメージをはっきりさせるために、逆に感覚の鈍い人を描出してみます。自分の生命の流れがほかの生命の流れと同期(シンクロ)する振幅が広い。変化についていける。流動している。臨機応変…

〈定位〉から考える聴覚過敏8 選択的に注意するものは何か

自閉症スペクトラムの人は、ほんとうに音を選択して拾っていない(拾わされている)のでしょうか。何を基準にして、何を重要な手がかりにして、音を選択しているのでしょうか。ほかの自閉症スペクトラムの人の聴覚過敏については詳しく把握していないので、…

〈定位〉から考える聴覚過敏7 〈第一陣〉に穴があく

とはいえ、音を「受け止めて反応(レシーブ)」できるときがないわけではないのです。目の前の重要な音や心地よい音に集中して、自然にフォーカスできる時間はあります。 とりわけ好きなこと、ワクワクすること、興味のあることに一心に没入しているときは、対…

〈定位〉から考える聴覚過敏6 音を受け止めてレシーブする選択的注意

なぜ聴覚過敏になるのでしょうか。 過敏に影響を及ぼすものは、「調整」「気分」「音の意味」という3つの要素がからんでいると、さきに引用した著者は述べています1)。思い当たる体験から、詳しく描写してみたいと思います。 まずは「調整(あるいは調節…

〈定位〉から考える聴覚過敏5 中枢利得と内圧

人の聴覚には利得を調整する能力があるとデービッド・M・バグリー/ゲルハルト・アンダーソンは述べています。 利得とは、「中枢(神経)で増幅されて聴覚利得(auditory gain)が加わり、内部で意識される音の大きさが大きく感じられることを意味する。た…

〈定位〉から考える聴覚過敏4 聴覚の〈定位〉

視覚と触覚は、聴覚の<定位>を構築する強力な助っ人です。けれども視覚単独では、視界に映じる物体表面の奥に関係の網を張っている、現実世界の「気配」までを把握するのはむずかしいです。また、触覚単独で空間の実在を捕捉することはできても、「気配」…

〈定位〉から考える聴覚過敏3 〈定位〉の発見(2) スルリとはまり、なじむ

これは、ある日の<定位>の成功体験です。 そのころ私はひどい聴覚過敏で、静かな室内でも超音波はピリピリとがっているし、一歩外に出れば「音の壁」がジワジワ身体を締めつけ侵襲してきて、音圧そのものと化した空間が、十方から迫ってくるようでした。 …

〈定位〉から考える聴覚過敏2 〈定位〉の発見(1) この世界と私の身体の接地点

聴覚過敏について解説された本1)を読んでいて、重要なキーワードになりうると思ったのが<定位>という概念でした。最初は訳(翻訳書だった)が悪いと思って、もっとわかる日本語に訳してほしいと文句を言っていたのですが、ふだんあまり聞かないこの言葉…

〈定位〉から考える聴覚過敏1 はじめに

聴覚過敏は、たいていの人が意識せずにやり過ごせる音を、ときには我慢ならない苦痛をともなう過剰な刺激として受けとる体験です。 聴覚過敏が発生し、その症状が変化するしくみは複雑で、全容を把握するのはたやすくありません。特定できる一つの原因がコウ…

SNS不安 (7)まとめ 直接的で粗暴なつながり

私のSNS不安は、広場恐怖、社交不安、緘黙に近いと自覚している。最も恐れているのは、「直接的で粗暴なつながり」である。 図4は、これまで述べてきたSNS不安の全体像を描いたものだ。 図4 SNS不安 SNSのネットワークには、すでに述べたよう…

SNS不安 (6)雪崩(なだ)れ込む〈思念〉と〈感情〉

発信者の細部を捉えると、「上空飛行」のときはノイズだったそのツイートに、「あ、そうなのか」「へーぇ」「面白い」「すごい」「きれい」などと私のハートが立ち上がる。つまり共感して、いいねを押したくなることもある。しかし、この動機は挫かれること…

SNS不安 (5)ツイートから「人の見え方」を観察する

ツイートの一つひとつを確認するために、エイッと気力を振り絞って、タイムラインを鳥瞰している意識の上空から「低空飛行」させることにする。 高度を落とすと、離れ家に、友人という建前のよく知らない人が押しかけて、主人不在のホームパーティーをしてい…

SNS不安 (4)タイムラインはノイズの大海

タイムラインを「鳥瞰」すると、視界を覆っているのは、取得したい情報ではないノイズが多い。 まず、おすすめユーザーとか、「眠い」「○○したい」などのドウデモイイつぶやきとか、目をチカチカさせる広告は、煩わしいノイズだ。 不特定多数の人に共感を求…

SNS不安 (3)思いきってタイムラインへ……

そんな「通知」の赤丸が浴びせかける、能面のように不気味な情念ビームを押し切って、ついにツイッターのアイコンをタッチする。Now loadingの画面に切り替わり、目の前に飛び込んでくるのは……。 ツイート、ツイート、ツイートの嵐。投稿者のプロフィール画…

SNS不安 (2)通知にウッ!

「ツイッターがやりづらい私」のイメージを、ことばと図で描写してみよう。 まず、スマホ画面にあるツイッターのアイコンの右肩に、何かが表示されている。バッジのような赤い丸印の中に、白抜きで数字が見える。これは、いいねされた、リツイートされた、メ…

SNS不安 (1)ツイッターができない

私はツイッターができない。フェイスブックも、LINEも、インスタグラムも。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)と称される、参加者同士のコミュニケーションを主目的にしたWEBサービスが苦手だ。ふだんから絵を描いたり文章を書いたりしている…

『踏まないで!』第11章 ブラックホールの秘密

※この記事は、現在執筆中の聴覚過敏手記『踏まないで!』の一部分です。 第11章(600頁分)のうち、最後の章です。 1 厳しかった猛暑は和らぎ、朝晩の涼しさはいよいよ増して、秋の気配が濃厚になってきた。真夏のころ散歩道でぶつかってきたセミは姿を消し…

『踏まないで!』第11章 味方を求めて

※この記事は、現在執筆中の聴覚過敏手記『踏まないで!』の一部分です。 第11章(600頁分)のうち、最後の章です。 1 まだ梅雨は明けていなかったが、一時、雨はやみ、梅雨闇と呼ばれる薄暗い曇り空が視界を覆っていた。二〇一九年七月上旬のある日、一年ぶ…

『踏まないで!』第11章(1) 高木さんとの対話

※この記事は、現在執筆中の聴覚過敏手記『踏まないで!』の一部分です。 第11章(600頁分)のうち、最後の章です。 詩ブログ 地底の声 にも投稿しました。 1 梅雨の季節真っ最中で、雨が降り続き、蒸し暑い空気が肌にまとわりついていた。二〇××年六月末日…

『踏まないで!』序章

※この記事は、現在執筆中の聴覚過敏手記『踏まないで!』の一部分です。 第11章(600頁分)のうち、最初の章です。 二〇××年一〇月のある日、Jワークスの機械室で、私は何度目かのパニック発作にのみ込まれていた。 そこは、無機質なコンクリートの壁と床が…

プロフィール

天寧煌子(あまねこうこ)といいます。 文章や絵を書いています。 (絵は死んだ飼い猫です) かなり昔、自閉スペクトラム症を診断されました。 変わっていて、分かりにくく、人が共感しにくい感性(マイノリティ・センス)をもっています。 ものの見方、考え…

マイノリティ・センスへようこそ【ブログ概要】

マイノリティ・センスへようこそ このサイトは、天寧煌子(あまねこうこ)のホームページです。 散文や詩や絵などの作品発表・自己表現の場です。 文章では、主に自閉スペクトラム症に関する散文や詩などを書いています(このサイトでは)。苦しみを吐き出す…