マイノリティ・センス

自閉スペクトラム症の個人的な表現・分析(聴覚過敏多め)

スイレン

小説「ヒキコモルートアドベンチャー」

ヒキコモルートアドベンチャー 6(終) 赤い俊足ついに現る

ようやく巻き上げた先は、赤い俊足の家の近所であった。彼がいつも通り三時一〇分に家を出るのなら、ここらではち合う可能性が高い。しかし、気配がないところをみると、やはり先ほど堤防で出くわした赤い影は本物か? ここにとどまっていては危険だ。僕はく…

ヒキコモルートアドベンチャー 5 ユスリカ蚊柱の死闘

すると今度は、ユスリカの大群が待ち構えていた。 春のユスリカときたら、一匹一匹は三ミリほどの昆虫でありながら、何百何千と隙なく白煙のごとき蚊柱を巻き上げる壮観は、じつに威圧的でおぞましい。コイツらは、そのか細く透明な図体で、一体何を食して生…

ヒキコモルートアドベンチャー 4 異種間戦争

その時だった。 「うおっ、なんだこれ!?」 細長くてクネクネした灰色の何かが光っていた。体調五十センチ以上あろうかというガタイの立派な蛇が、頭だけを草むらに突っ込んで、胴体の三分の二を堤防道に晒していた。 僕は冷や汗をかいて硬直したまま片膝をつ…

ヒキコモルートアドベンチャー 3 川辺のカモフラージュ

【前回までのあらすじ】 僕は散歩の途中、赤いランニングシャツを着た男が近づいてくるのを見た。 そいつは、僕にやたらかまってくる近所のニガテな老人だった。 僕はとっさに金木犀の茂みに身を隠し、堤防に出た。 赤い俊足が散歩に出る時間は三時一〇分。…

ヒキコモルートアドベンチャー 2 赤い俊足

その男は散歩の途上で毎日すれ違う、背丈の低い近所の老人である。いつも赤や青の派手な原色のランニングシャツを着て早足で歩くか、走っている。赤いシャツを着用している確率が高いので「赤シャツ」と命名したいところだが、某名作のネーミング盗用になっ…

ヒキコモルートアドベンチャー 1 これが忍術…?

僕はいい年をしたひきこもりだ。ひきこもったいきさつは、面倒だから言いたくない。どうしてもそうせずにはやっていられない、やむにやまれぬ差し迫った絶対的必要があるからそうしているだけのことだ。 僕はかねがねひきこもりの冒険譚が読みたいと思ってい…