マイノリティ・センス

自閉スペクトラム症の個人的な表現・分析(聴覚過敏多め)

スイレン

〈定位〉から考える聴覚過敏10 火に油を注ぐもの(1) 不安

 聴覚を過敏にさせる3つの要素「調整」「気分」「音の意味」のうち、「気分」「音の意味」といった心理的な問題が聞こえ方に与える影響ははかりしれず大きいものがあり、無視することはできません。

 

 選択的注意ができないというだけで、「火に油を注ぐもの」がまったくなければ、症状は甚だしく悪化することなく、「深刻な」聴覚過敏として燃え上がるには至りません。逆に言えば、「気分」を安定させ、「音の意味」を把握することができれば、過敏の程度をコントロールしやすくなります。

 

 さまざまな気分がありますが、「火に油を注ぐもの」となるのは、怯え、不安、恐怖、怒りなど原始的な感情です。原始的な感情は、瞬時に神経系をピリピリ興奮させ、聴覚過敏に多大な影響を及ぼします。情緒が不安定だと刺激の許容閾値は低下し、感受量が増大して、聞こえは過敏になります。安心しきっている気分では聴覚過敏になりにくく、聴覚過敏が出ているときはたいていなんらかの不安を感じています。逆に最も抑止力となるのはリラックス(弛緩)した気分で、症状の出現を抑制し、過敏によって生じた身体の痛みを和らげます。

 

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 ある日私は、つんざくような轟音に打たれて目が覚めました。マンション上階で改修工事をしていて、そのドリルが回るゴーッというすさまじい機械音が、天井一枚を隔てて響いてきたのです。

 身体の内部にまで侵入されるような脅威と圧迫を感じて、息が詰まりました。前日までは、この強烈な刺激にかろうじて耐えることができていました。それが、急に音がこちらに向かって大きくなり、その距離はとうとう「身体に直接触れている」と感じるところまで、近くに肉薄してきました。

 

 私はこの日、ある集会に参加する予定でいました。けれども、対人関係をうまく築けない不安からある人と顔を合わせるのを恐れていました。そうこうしているうちに外出するタイミングを逃してしまい、参加しなくてもよくなったとたん、轟音から受けとる強圧感はなんとか耐えられる許容値に戻り、呼吸がすうっと楽になりました。

 

 関係に<定位>できないという不安が聴覚過敏をあおり、聴覚過敏が気分の<定位>を確立しないという相互作用によって、症状は悪化しました。聴覚過敏という震源を抱えたひずみだらけの地盤は、「火に油を注ぐ」気分によって、ほんとうに地震が発生するところまで揺らいでしまうのです。