自閉スペクトラム症
大晦日の深夜。親戚の家に一人でいた。 あるアニメ映画が放映されていた。いよいよエンドロールが流れ、「物語の終わり」が訪れようとしていた。 それは、死を予感させた。胸を締めつける恐怖が、心に爆発した。 むきだしの存在不安、そして死の不安。 梶井…
◆うわの空の高校生活 変わり者が多く、個性が尊重される美術系の高校だったせいか、〝浮く〟 ことはなかった。 高校生活もやはり、「うわの空」だった。 美術や漫画つながりの友達はいたが、趣味は合っても、ほんとうの親密さや、心のつながりは、感じなかっ…
◆趣味の世界に没頭する 小学校高学年から絵を描くようになっていた私は、アートを皮切りに、小説、漫画、アニメ、ゲーム、音楽などの「趣味の世界」に熱中するようになった。それは尋常でない没頭ぶりだった。やりすぎるし、やめられないのだ。 アウトドア派…
◆宇宙人 自分はほんとうに人間なのだろうか? 宇宙人ではないだろうか? 己の「人間」を疑った。 毎日、学校から帰ると、押し入れの中に潜り込み、襖を閉めて、暗闇で一、二時間は泣いた。毎日毎日。 思い返せば、私の発達はうんと遅れていた。小学時代は多…
◆人間への違和感 ほとんど同じ時期、もう一つの、鮮烈な自己意識が芽生えた。 毎日、中学校の校舎で、楽しげに笑う中学生の群れを見ていた。私の眼は、虚ろだった。 強烈な違和感があった。 みんながなぜ笑っているのかわからない。みんなと同じように感じな…
ある夕方、空いた電車に乗っていた。車窓の外で霧雨が降っている。夕靄が縦座席を染める。 突然、私の脳裏に見たこともない映像が鮮やかに出現した。薔薇の蔓が絡まり合った巨大な門が、白く霞む濃霧に浮かんでいる――。 白昼夢。 それは、心の宇宙に膨張する…
◆自我の芽生え 突然、何かが私を激しく打った。天の啓示のようないかづちが――。 【大いなるものへ】 灰に染まる石室で、あなたは〈わたし〉を与えてくれた 日覆いの隙間から、見知らぬ風景の空から それは突然降りてきた 初めて目覚めた人間のように 啓示は…
◆引っ越し 小学校を卒業すると同時に、父の仕事の都合で、中部地方のある町に引っ越した。社宅アパートに住まった。 この町は、工場地帯だった。 石灰石の鉱山がある。ふもとの工場が採掘し、破砕し、焼成する。見渡す限り、そのような工場だらけだ。 工場の…
◆疎い人間関係 よくからかわれ、いじめられていた。 男の子に背中で担がれて泣き喚いた。五線譜に作曲したノートを奪われた。ペンを盗られた。 しかし当時は、相手が自分に何をしているのか、わからなかった。意味不明な災難に遭ったという感じだけがあった…
◆人目がわからない 家でも外でも、狂ったように遊び回るのに、人が来るのを待っているだけで、自分から、友達の輪に入ろうとしなかった。 保育園の先生によると、自分の殻に閉じこもって、外の世界に興味を示さなかったという。 母によると、「暗い」という…
◆こだわり 収集癖があった。 缶ジュースの蓋(当時は缶から外せた)をコインに見立て、大量に集めた。 山道で捕まえたカマキリを、帽子に入りきらないほど入れ、持ち帰った。 空き地で、何かの白い幼虫を大量に掘り起こし、家の庭に放した。 何かを燃やすの…
◆いたずらと危険な遊び いたずらばかりしていた。 「慈善事業」と称し、ティッシュでつくった「こより」の束を、住んでいたマンションの全ポストに入れた。 マンションのコンクリートにマジックで落書きして、消せなくなり、親から怒られた。 人の家から桃を…
◆小学時代1 私は、関西地方のある都市で生まれた。 幼稚園に入って一年後、奈良県にある、山の斜面を削ってできた新興住宅地に引っ越した。 母によると、私は子どもの頃から聞かん気が強く、わがままで、強情で、しつこかったそうだ。妹の何倍も手がかかり…
【あなたのひとまたぎは千里の道】 一息に羽化する人は 知っているだろうか あなたのひとまたぎが 千里の道であることを 精神科医の小澤勲は、『自閉症とは何か』の中で、「自閉症範疇化の中核症状は自閉である」と言っている。 私の自我はずっと「自閉」と…
◆〈自己〉が〈自己〉であろうとする物語 私が生涯で、一番悩み苦しんだのは、〈自閉〉である。一言でいうと、「〈自閉〉という〈自己〉」「〈自己〉の中から出られない」。 このテーマについて語り尽くせば、1冊の本になるかもしれない。 私は今、重度の聴…
〈自閉〉は嫌われている? 〈自閉〉は嫌われているらしい。 電車内で携帯電話をかける人や、わけのわからない独り言を呟いている電波系の人は、多くの人々に異様な不快感を与えると、精神科医の斉藤環はいう(※1)。なぜなら、「僕たち」と同じ言葉をしゃべ…
社会の対極に、布置していた。 しかし、社会はそこに私が居ることを、知らなかった。 社会に布置させることが、幸福だと、思っていたのだ。 【社会は私を生かし、そして殺した】 社会は私を生かした そして殺した 社会に殺されたことのない人は そんなことを…
ある出来事が起こりかけている気配を〈徴候〉という。つまり時間や空間の与える〈印〉である。 五感が反応する前に、〈徴候〉は私の心にいち早くスタンプされる。この感覚はテレパシーのようなもので、第七感の域に達しているのかもしれない。五感を統合する…
スリランカ上座仏教には、〈印〉(または〈想〉。サンニャーと読む)という言葉がある。対象を認識するときに、他のものとの違いに気づく心の働きをいう。意味は印象impressionに近い。 Saññāとは、感じたものについて何か区別するために、印のようなものが…
私は自閉症当事者・森口奈緒美さんの大ファンです。熱烈といっていいほどかもしれません。 先日、森口奈緒美さんの自伝第3作『自閉女の冒険』をチラ見(まだ途中までしか読んでいない)しました。 自閉女(ジヘジョ)の冒険──モンスター支援者たちとの遭遇…
世界は圧倒的 中年HSP記 さんのマネをして、4コマ漫画を描いてみました。
最近、応援している人の選挙を手伝いました。 以下は聴覚過敏やコミュニケーションの困難を記した記録です。 選挙前夜打ち合わせ 総勢12名で打ち合わせ。 あちこちザワザワ騒がしく気が散る 誰も彼も声がキンキン尖っている 初めての顔ぶれとのコミュニケー…
○○さんってアスペルガーじゃない? 知り合いのY美が、声をひそめて私にこうささやきました。 「Oさんてアスペルガーじゃない?」 Y美はスピリチュアルなものに興味を持つ、繊細で敏感な人です。 HSP(Highly Sensitive Person 人一倍敏感な人)の特性…
知り合いの躁鬱病持ちD氏に手記原稿を見せた。 そこには、思春期の内面における葛藤と、職場いじめなど社会に出てからの闘いを記していた。 D氏はこう指摘する。 「自閉症の人でここまで努力しているのは少数派でしょうね」 「は?」 なぜそんなふうに言える…
【カンテラ】 巌(いわお)が暗がりに沈む 闇黒(あんこく)の洞窟を行く 湿った石灰岩に沿って 奥、奥、そのまた奥深く―― 道の尽きた壁に 肉厚に隆起した 透明の膜を着膨れて 沈黙に鎮座する 異形の塊 ――それがわたし 君よ カンテラに灯をともし その手に掲げ持…
誰に向けて発信しているかわからない ある日、ハローワーク比佐間さんをつかまえて、グループ展における社会の反応「?」や無言の意味を確認しようとした。比佐間さんは、こう教えてくれた。 「天寧(あまね)さんは、自分のアピールが人にどう受け止められる…
一対一では大丈夫ですが、特に3人以上の集団において、 みんなと同じように感じない 肯定的感情を共有できない ということに、ズーッと、悩んできました。 みんな笑っているけど、 私だけわからない or 苦痛とか・・・ みんな「いいなあ」というけど、 私だ…
20年前、『自閉症だったわたしへ』という本 ↓ 自閉症だったわたしへ (新潮文庫) 作者: ドナウィリアムズ,Donna Williams,河野万里子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2000/06/28 メディア: 文庫 購入: 8人 クリック: 153回 この商品を含むブログ (47件) を…
私のinput回路は、チューナー(受信機で同調操作を行う部分)を微調整するだけでなく、情報の発信源と媒介者に助けられることで、開通しやすくなる。 私の思考・感覚には、〈アンテナ〉の立ちやすい位置や角度、情報を受けとる特定の周波数がある。 ラジオの…
それから間もなくして、不思議な出来事が起きた。 私はある文学会で、詩や体験記などの文章を発表していた。 ある日、横光利一の『花園の思想』を朗読した。それは、テキストの文字を目で追うと、映像が鮮やかに浮かび上がる迫真の描写だった。 保険証の一件…