〈自閉〉と〈社会〉のはざまで(14) 高校時代2 発狂
◆発狂
十二月三十一日。私は突然「発狂」した。
それはいかにも奇妙で、異様な体験だった。私の心に何が起こったかを、一般の人に説明するのは難しい。
〈世界〉が見えるようなった私は、「物語」に耽溺した。小説、漫画、アニメ、ゲーム、映画のファンタジーに。平安中期の歌人・菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)が「物語」に耽溺したように。
「物語(ファンタジー)」は、私の中で実在していた。
一貫した芸術作品として確立しているばかりでなく、そこにある世界が、現実とは別の秩序をもって、息づいていた。登場するキャラクターも、私と同じように 〝生きて〟 いた。
それは私にとって、現実とは異なる、もう一つのまったき現実であり、実在だった。
「物語の終わり」は、愛する人との別離の悲しみや、死の恐怖に匹敵する、心の痛みを私にもたらした。「物語」の背後に存在する、もう一つの現実の息づきを、見えない霊気を、つまり〈世界〉を見、信じる。この能力のために。
耽溺していた、ある「物語」が終わってから、大事な人が死んだように、三年以上、嘆き悲しんだこともあった。