〈定位〉から考える聴覚過敏13 まとめ 能動的構え
ほかの聴覚過敏の原理に当てはまるかどうかわかりませんが、私の聴覚過敏においては、まず定常位置の転覆を驚愕する心があり、みずからの定常位置へ同化/異化する選別作業としての摩擦と刺激が多くなっている様子をみてきました。その選択の前段階としての対応に追われるために、本来的な選択的注意ができにくく、能動か受動か構えを決めかねて、姿勢が不安定になっていました。
「火に油を注ぐ」原始的不安や正体不明の音が一切ない「安定しきった」状態においては、地震が起こる前段階を思わせる動揺にとどまりやすいですが、とりわけ音の意味が不明瞭である場合、理解しうる意味を求めて想像力と幻想の過剰補完が起こっていました。
定常位置の転覆を驚愕する人間の聴覚過敏では、地上に布置する生物・無生物との関係(ネットワーク)において、自分の位置を定立する<定位>が失敗、あるいは不確立、あるいは転覆していました。そこでは音を受け止めて反応(レシーブ)する体勢が不安定になっており、しばしば受動状態で劣位になり、構えが崩れ、ドミノが倒れるように聴覚過敏が引き起こされました。
こうした劣位から体勢を立て直し、「火に油を注ぐもの」をコントロールして<定位>を確立するためには、幻想の過剰補完を減らし、腰をかがめて両手でバレーボールのスマッシュを受けるように、あるいは打席でバットを構えて投球される瞬間を待つように、能動的構えをとるのが最重要であると私は考えています。
文献
1)デービッド・M・バグリー/ゲルハルト・アンダーソン(中川辰雄訳):聴覚過敏. pp.25, 海文堂, 2012
2)甘利俊一(監修), 中川聖一, 鹿野清宏, 東倉洋一(共著):音声・聴覚と神経回路網モデル. オーム社, 1990
3)山内昭雄, 鮎川武二:感覚の地図帳. 講談社, 2001
4)甘利俊一(監修), 田中啓治(編):シリーズ脳科学2 認識と行動の脳科学. 東京大学出版会, 2008
5)コンディヤク:感覚論(上). 創元社, 1948
〈定位〉から考える聴覚過敏2 〈定位〉の発見(1) この世界と私の身体の接地点
〈定位〉から考える聴覚過敏3 〈定位〉の発見(2) スルリとはまり、なじむ
〈定位〉から考える聴覚過敏6 音を受け止めてレシーブする選択的注意
〈定位〉から考える聴覚過敏9 こだわる固体の固着とこだわらない気体の流動
〈定位〉から考える聴覚過敏10 火に油を注ぐもの(1) 不安