マイノリティ・センス

自閉スペクトラム症の個人的な表現・分析(聴覚過敏多め)

スイレン

〈定位〉から考える聴覚過敏5 中枢利得と内圧

 人の聴覚には利得を調整する能力があるとデービッド・M・バグリー/ゲルハルト・アンダーソンは述べています。

 

利得とは、「中枢(神経)で増幅されて聴覚利得(auditory gain)が加わり、内部で意識される音の大きさが大きく感じられることを意味する。たとえば、無響室や防音室などに入ると、周囲の音が遮断されているために、急に音の聞こえが研ぎ澄まされて、今まで気にならなかったり無視されたりしていた音が急に意識されるようになる」現象です1)

 

 入力音刺激の音圧に依存して聞こえが変化し、低レベルの入力に対しては神経の鋭い共振を示し、高レベルの入力に対しては共振が小さくなる2)、つまり物理的音量と同程度の音量がそのまま感知されるわけではなく、中枢神経が受けとる音のレベルを調整しているそうです。

 

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 抽象的なイメージになりますが、自分の体験では、末端の神経受容を遮断すると(たとえば耳栓で防音し続けると)、あたかも窓の外の大気と窓を閉め切った部屋の気圧差のように、現実的な外側の世界と内面的な世界の圧力が変わってきます。遮断し続けると現実感が希薄になり、密閉されたタイヤの空気が膨らむように、内面世界からの圧力が高まってきて、その緊張が高じると聴覚過敏を引き起こすことがあります(物理現象においては、台風が通過するなど気圧が低い時間帯は、血管など体液の内圧が高まり、聴覚過敏になりやすくなると実感します)

 

 自閉の進行方向は内に向かう収束のエネルギーで、聴覚過敏の進行方向は自閉が閉じ込めたエネルギーを内面世界の境界内で膨圧させる、外に向かうエネルギーだと感じています。両者は拮抗し、亀裂を生じ、しばしば不自然な痙攣を生じさせます。その緊張が聴覚過敏に反映されます。

 

 精神的な内圧を高める最大の核となるエネルギーは、悪い記憶(学習)です。記憶は、記憶の存在する内圧の高い領域にくらべて低い圧力下にある身体の外の世界に存在する、自分と結びつくようなわずかな刺激に、集中して攻勢をかけ、選択的にとり込もうとします。刺激を選択する強迫性が高まるので、内圧過剰になります。自閉は悪い記憶をためて内面世界に反響させ、聴覚はその振動を聞きます。この内圧が、神経生理学的には中枢神経の利得増幅であり、<定位>においては刺激選択強迫、または刺激選択のフライングになるのだと思います。