〈自閉〉と〈社会〉のはざまで(11) 中学時代5 宇宙人
◆宇宙人
自分はほんとうに人間なのだろうか? 宇宙人ではないだろうか?
己の「人間」を疑った。
毎日、学校から帰ると、押し入れの中に潜り込み、襖を閉めて、暗闇で一、二時間は泣いた。毎日毎日。
思い返せば、私の発達はうんと遅れていた。小学時代は多くの子どもたちと活発に遊んだが、じつは一人遊びに夢中になっていて、社会と出会っていなかったのだろう。思春期になり、自我の目覚めとともに、初めて 〝社会と接触〟 したのだ。
私は絶望した。生まれて初めて本格的な人生の試練に遭遇した。
次から次へと襲ってくる「絶望」に、小学時代とは違ってあたふたと翻弄される自分。環境が変わると同時に、精神も、これまでとはまったく違ったものになっていた。その変化があまりに怒濤の如きだったから、自分でも信じられなかった。絶望しながら、こんなのは嘘だ、嘘だと思っていた。
私は苦しんだ。神経が研ぎ澄まされるとともに、苦悩の能力も芽生えた。あらゆることが苦しかった。人がなんとも思わないようなことが。
両親の仲は悪く、離婚の危機にあった。妹は家庭の不和に、思春期の心を傷つけられていたが、私は 〝その方面〟 はなんともなく、腹痛のほうが苦しかった。
学校生活は、うわの空だった。何も心に響かなかった。自分一人が暗黒世界にいるようだった。
表情や動作をまわりの人に合わせ、仮面を被る演技を覚えた。手のひらを顔の前にかざし、シャッターを切るように下ろすと、ピエロの顔が出現する。この儀式的な動作で自分を「学校用」に切り替えた。
おそらくこの頃から、離人症(周囲の出来事や人々、自分自身に対して現実感がなくなる症状)になっていた。