〈自閉〉と〈社会〉のはざまで(7) 中学時代1 故郷喪失
◆引っ越し
小学校を卒業すると同時に、父の仕事の都合で、中部地方のある町に引っ越した。社宅アパートに住まった。
この町は、工場地帯だった。
石灰石の鉱山がある。ふもとの工場が採掘し、破砕し、焼成する。見渡す限り、そのような工場だらけだ。
工場の影に、民家も密集している。
アパート前の平野いちめんに、何台ものショベルカーのまわりに、破砕された石灰石が積み上げられている。
遠くに、地肌の露出した鉱山が白っぽく見える。大気に霞んで存在感は薄い。自然の情趣もなく、私の眼には入らなかった。
ショベルカーが石灰石を砕く、ガラガラガラという凶暴な音が、四六時中響き渡っていた。
殺伐――という言葉がピッタリくる。
その風景は、”色” を失っているように見えた。灰色の空の下で、灰色の石灰石が、視界を埋め尽くしている。
アパートのコンクリート壁も殺伐としていて、以前の安らぐ一軒家とは、まるで違った。
◆故郷喪失
こうした荒んだすみかの印象は、思春期に入ったばかりの私の心に、衝撃を与えた。感化され、得体の知れない不安が湧き上がった。
神経は恐ろしく繊細になった。感受性が一気に開花したようだった。思春期のせいもあるが、それは生半可なものではなかった。
心は何かに触れては壊れ、触れては壊れ、毎日傷つき続けた。天真爛漫だった小学時代が嘘のように。人が変わったように。
心の中の何かが欠け落ちてしまったことを、私は知った。
それは、「故郷」だった。
豊かな自然に溢れ、色鮮やかだった懐かしい景色。心にばら色に輝いていた奈良は、もうそこにない。
ブラインドから夕暮れを眺めていた時だった。自分の中から、これまでの 〝ありとあらゆるもの〟 が喪われていくように思った。涙を流した。