マイノリティ・センス

自閉スペクトラム症の個人的な表現・分析(聴覚過敏多め)

スイレン

20年心にしまい続けた森口奈緒美さんへのファンレター

私は自閉症当事者・森口奈緒美さんの大ファンです。熱烈といっていいほどかもしれません。

先日、森口奈緒美さんの自伝第3作『自閉女の冒険』をチラ見(まだ途中までしか読んでいない)しました。

 

自閉女(ジヘジョ)の冒険──モンスター支援者たちとの遭遇と別れ

自閉女(ジヘジョ)の冒険──モンスター支援者たちとの遭遇と別れ

  • 作者:森口 奈緒美
  • 発売日: 2020/02/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 
森口さんいわく「もう、あまり、時間がない」(214頁)という気になり、いてもたってもいられず、長年にわたる森口さんへの思いを書き記すことにしました。

 

 

変光星』との出会い~アスペルガー症候群を診断される

20代前半だった頃、私は職場でことばの聞き取りがうまくいかず(他にも状況理解のまずさやいじめ等もあり)鬱が酷かったためにアスペルガー症候群を疑い、関係の本を調べている時、偶然、『変光星』を手に取りました。

 

 


それは、初めて読んだ自閉症者の手記でした。


「こんなにも命懸けで自閉症と、世間と闘って生きている人がいるのか……!」


涙を流して感激したことを覚えています。

先達者の存在が心強く、勇気づけられました。


森口さんの事例を参考にして、半年かけて生育歴をまとめ、ある病院でアスペルガー症候群を診断されました。

森口さんの著書あって辿り着いた診断でした。

 

ドナの本にも出会う

余談ですが、それからドナ・ウィリアムズの著書にも巡り会い、今度はドナに没頭しました。

 

自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

 


私にとってドナは姉のような存在でしたが、英語音痴が壁になり、積極的にコンタクトを取ることもなく、遠くから憧れていただけでした。

気付くとドナは、既に亡くなっていました。

私はその間、ひたすら自分・世間と「戦争」していて、なんの余裕もなかったのでした。

 

明るく、軽く、キラキラしている手記は心を打たなかった

いつしか発達障害の情報は多くなりました。

別の当事者による手記も手にとってみましたが、最後まで読み通すことはなく、さほど印象には残りませんでした。

いいなと思った手記もあったのですが、自分の内面的な「戦争」に明け暮れて、読み通す気力が続かなかったのでした。

特に明るく、軽く、万人に受け入れられやすい作風のもの、「発達障害だから○○できる!凄い!」系のキラキラしたものは読めませんでした。

〈軽い〉作風の手記には、一般的には安らいで読める良さはあるでしょうが、決して私の心を打つことはありませんでした。

 

森口さんの手記の〈重み〉が〈支え〉に

同調圧力の強い日本という国。意識が〈拡散〉していく現代という時代。

森口さんや私のような人間は、時代・人間の趨勢から完全に〈逆行〉しているから生きづらい。何を言ってもやっても、みんなの〈逆〉になってしまいます。

そうした現実の〈重み〉を凄まじくリアルに突き出しているのが、森口さんの手記でした情報弱者の私の得ている情報の幅が狭すぎるのかもしれません。他にもリアルな手記はあるのでしょう)

 

どの当事者の手記よりも、森口さんの手記には〈重み〉があるように私には思われました。

世の中に一人で〈逆らって〉いて、その衝撃と重力の底で悲鳴を上げている。

それは一人の人間の生きた証、〈当事者文学〉そのものでした。

まさに「命懸けで書いている」――(だから好き!)

そしてその〈重み〉は、私の生きる〈支え〉となっていきました。

〈重い〉からこそ〈支え〉となりうる重力を得たのです。


森口さんのように、世の中に大々的にもの申す気力もなく、私は社会や聴覚過敏との闘いに明け暮れました。

そんな中で、森口さんの手記は20年以上、私の生きる拠り所であり続けました。

 

ファンレターを書くのが夢だった

ファンレターを書こう書こうと思いながら、長い年月が過ぎてしまいました。

変光星』も『平行線』も、もう一回ちゃんと読み直さなきゃ……などといろいろ襟を正してしまって(読むのが苦手なのもありますが)

リスペクトしすぎて、恐れ多くて書けないといったところかもしれません。

だからこの記事は、出さなかったファンレターです。

 

日本で一番面白いノンフィクション

『自閉女の冒険』は3分の1ほど読みましたが、やはり素晴らしいの一言です。

〈当事者文学〉としての〈重み〉があり、心がノックアウトされます。

日本で一番面白いノンフィクションです。私には。

私に生きる力と〈支え〉を与えてくださった森口奈緒美さんの、果てしない苦しみが和らぎ、穏やかで安らかな日々が訪れるように願っています。

そしてできれば、私がファンレターを書くまではご健在で、生きていらっしゃるように、と…。