マイノリティ・センス

自閉スペクトラム症の個人的な表現・分析(聴覚過敏多め)

スイレン

聴覚過敏を伴った自閉症感覚とその能力(2) 予知覚

 ある出来事が起こりかけている気配を〈徴候〉という。つまり時間や空間の与える〈印〉である。

 五感が反応する前に、〈徴候〉は私の心にいち早くスタンプされる。この感覚はテレパシーのようなもので、第七感の域に達しているのかもしれない。五感を統合する根源的能力である共通感覚中村雄二郎『共通感覚論』、岩波書店、二〇〇〇年)と言えるだろう。

 

 私の聴覚は〈徴候〉を捉えるレーダーの役割も果たし、共通感覚を広げたのだろう。人の存在を存在として、つまり〈核〉のまま受け取る能力を高めたのだろう。

 ただ、身体の中で起きる物質的(フィジカル)な反応も強いので、個別的な五感のうちにとどまり、共通感覚として十分な統合がなされていないようにも思う。

 

 聴覚過敏が重度になり、私は〈予知覚〉ができるようになった。これは予知と知覚を合わせた私の造語で、未来に起こり得ることをあらかじめ知る感覚という意味だ。

 

 

〈予知覚〉の起こり方には三段階ある。

 

 まず私の共通感覚が、ある出来事が起こりかけている〈徴候〉を捉える。とくに聴覚レーダーがいち早く反応し、聴覚過敏になることがある。ユップ守衛やキーパンチ(※人の名)の前で症状が出た(第十三章)ように。

 視覚情報も〈徴候〉を捉える手がかりになる。

 

 次に、捉えた〈徴候〉を過去に起きた出来事のパターンに結びつける。過去に得た体験や知識は、キーワードか図形として記憶に保管されていることが多い。そのキーワードや図形と、捉えた〈徴候〉のパターンが、同じであるとか似ているという判断を、すぐに下すことができる。

 これは、パターンに分類すると世界に秩序ができたようで安心するという、自閉スペクトラム症の特性(私が受けた知能検査では積木模様の得点が高かった)で、聴覚過敏とは別の感覚ではあるが、〈印〉の判断には違いない。

 

 こうして、未来の〈徴候〉を記憶に刻み込まれた過去のパターンに当てはめ、ピタリと嵌(は)まると、こうなるだろうという予感が生まれる。これが私の〈予知覚〉である。未知なる事柄を白紙から言い当てる超能力では、決してない。

 

 〈予知覚〉から私の聴覚過敏は生まれる。否、〈予知覚〉が聴覚過敏なのだ。それは研ぎ澄まされた自己防衛本能とも言える。

 

 私はネガティブ寄りの性格である。ネガティブな性格の人は、危機察知能力が高いという。だが私の場合、性格ばかりでなく、自閉症感覚のもたらす強大な〈印〉が、聴覚過敏の能力を発現させていると言えるだろう。

 

 人の意思・本質の透視、社会動向の察知、共通感覚、そして〈予知覚〉。これらはいずれも聴覚過敏を伴った自閉症の感覚であり、同時に、能力でもある(私の場合)

 私はいわゆるKYで、場の空気を読むのが苦手だ。表情を読み取る力も乏しい。しかし、こうした周縁的な自閉症感覚を用いて、空気や表情の読めなさを補っている。

 

――『マイノリティ・センス(下)』あとがきより――

 

 

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