あなたの成功体験を普遍化しないで
当事者会で、関係の本で、よくある。
発達障害だけど○○できました。
発達障害だけどスゴイ成功してます。
・・・ま、自分もやってしまっているカモしれませんが。
今、実際、発達障害だけど、文章書いてるので……。
しかし、成功アピールは全然届かないですよ、心に。
あなたの成功体験を、成功者の視線から、普遍化しないでほしい。
お前が言うな。
って感じになるんです。
どうしてもうまくいかない人がいるんですよ。
あなたと私は条件が、環境が、スタートラインが違うんです。
「それができる条件」があるんです。
その条件を手にできるかどうかは、運次第です。
社会的成功者とは傲慢かつ単純な人種が多いので、自分の成功を普遍化したがる。こんな自分でも成功した、だからみんなも諦めずにやってみたら、という『謙虚な』姿勢の裏には、臭いほどの自負心が渦巻いている。しかも、底辺から自力でのし上がって来た人ほどこの臭気は強い。気力とは、抽象的に湧き出てくるものではない。その人の過去の人生の全風景の中から立ちのぼってくるのです。Aさんは勇敢に信念をもって生きつづけ、その結果として現在の成功がある。しかし、それをBさんに当てはめることは、普通できないのです。
(中略)いかなる逆境にあっても、それを吹き飛ばしてたくましく生きようとする人はそれでいいのです。でも、そうできない人って、しかたないんじゃないですか?
(中略)こうして、膨大な数の若者が一五歳で、二〇歳で、三〇歳ですでに人生に敗れているのです。成功者は『そんなこと乗り切らなくちゃ! 若いんだから、人生長いんだから』とのたまう。しかし、あなたが成功したのもかなりの部分運だったんじゃありませんか? あのときあのことがなければ、あなたの人生はがらっと変わっていたんじゃありませんか? そしたら、陰惨きわまる人生を歩んだかもしれない。マイク片手に酔いしれているあなたは、このことを謙虚に認めねばならないのです。
中島義道『私の嫌いな10の言葉』227~229頁