ヒキコモルートアドベンチャー 6(終) 赤い俊足ついに現る
ようやく巻き上げた先は、赤い俊足の家の近所であった。彼がいつも通り三時一〇分に家を出るのなら、ここらではち合う可能性が高い。しかし、気配がないところをみると、やはり先ほど堤防で出くわした赤い影は本物か?
ここにとどまっていては危険だ。僕はくるりを背を向けて、堤防沿いの小径を引き返した。
もうしばらく春は続きますよ、と散った桜は語っているのに、すでに夏のような熱気が漂っている。暑さのためか、先ほどの熾烈な攻防のためか、頭の奥がじんじん痛む。
もしかしたら、赤い俊足はいつも通り三時一〇分に家を出て、今頃背後を歩いているのだろうか? あの赤い人影は、全部僕の妄想だったのだろうか?
再び小学校の運動場に差し掛かった。
その時、川を跨ぐ橋の上を素早く移動する赤い人影が目に飛び込んできた。やはりあいつだった!
僕はとっさに、なあんにも見ておりませんと素知らぬふうを装って、奴にはそうと気づかせぬよう、だが視界から確実に一歩一歩離れるように、往路で会得した忍者の術を駆使して、スゥーッと気配を殺して移動した。
僕は毎夏、ユニクロで調達した蛍光色のウォーキングウェアを着て散歩する。赤い俊足に劣らずどぎつい原色だ。ユニクロの体操着は、汗を吸収しても肌にサラサラの使用感を与えてくれる、現代の科学技術が結集した優れ物である。
もう少し汗ばむ季節になると、例年通り、この秀逸アイテムが店頭に登場する。今夏は、派手色を入手するのは控えよう。蛍光カラーでは遠くから容易に発見されてしまう。僕の姿を悟られてはならない。白無地の、できるだけ目立たないウォーキングウェアを新調しよう。いや、背景の並木道に違和感なく埋没する緑色がいい。いっそ迷彩服にしてはどうか。
そんなことを考えているうちに自宅に到着した。四月なのに汗だくである。異種間戦争と忍者戦法を展開した興奮のあまり、やけに首筋が凝っている。ピップエレキバンをツボにペタペタ貼り、磁気ネックレスを装着して、冒険の疲れを癒す。
まったく散々な目に遭った。往路たった五百メートルだが、今日の散歩はハードだ。今後も僕の神聖なるヒキコモルートを死守できるのだろうか。
(終)