マイノリティ・センス

自閉スペクトラム症の個人的な表現・分析(聴覚過敏多め)

スイレン

開通―コミュニケーションの封鎖が解かれるまで― 2 input(入力現象)を阻害している要因

 何かがinput(入力現象)を阻害している。

 

 inputが滞るのは、ふだんから絵や文章で表現している自分の内面世界に、独特のoutput回路が回っているのかもしれない。

 このoutput回線は、心の地底から渦巻き、上昇し、ある地点を出口にして放出されている。inputoutput回線の一部に穴を穿つようにチャンネルをつくり、そこから流入してくる。output回線が先に出たがっていて、input回線が入る場所を決めかねている。そんなイメージを思い描く。(図1)

 

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図1 input

 

 input回線が入る特定の場所がある。ここを通過する情報はすんなり入るが、位置がズレるととたんに理解できなくなり、コミュニケーションが詰まる

 たとえば、「チャンネルに合う」と感じられる文章はスッと頭に入ってくるが、「チャンネルに合わない」文章はただの文字列に見えてしまうことがある。

 

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 inputを阻害している要因を挙げる。

 

(1)感覚刺激の飽和

 私は聴覚が過敏で、受けとる情報量が膨大だ。許容される範囲を超えて刺激が入ってくると、自己意識が押しやられるように圧倒されてしまい、input回線が入る余地はなくなる。

 

(2)細部追求して前提・文脈を喪失する

 たとえば、本を読む時は些細な字面に、話す時はことばの断片に引っかかり、ルーペに映る像のように細部が拡大され、ポワーンとバカでかく迫ってきて、全体像を捉えられなくなる。著者・話者の言わんとしている〈前提〉に辿り着けず、文脈を求めて彷徨(さまよ)う。

 

(3)大量の感覚と思考による記憶の複雑化

 感覚はinput情報ばかりでなく、自家生産される情報も含まれる。刺激が多いうえに思考の量が多いと、複雑化した記憶は蓄積される一方だ。あまり物事を複雑に考えすぎたり、葛藤しすぎたりすると、感覚と思考を処理するための頭脳の空きスペース(コンピュータでいうRAM)が散らかり、圧迫され、新たな情報を書き込めなくなることも。

 

(4)イメージの不在と流動するLIVE情報への不適応

 私は静止している画像や文字など、目に見える対象から理解を得ている。話しことばなどの流動するLIVE情報は、リアルタイムで同期(シンクロ)して把握しづらい。

 

(5)会話力低下

 会話が不自由な私は、思索の言語世界に沈潜しすぎて話しことばが出にくくなる。舌を動かして発声する言語と頭の中の言語はコードが違うらしい。

 

(6)予想外の事態や予定変更

 不意打ちや突然の衝撃に弱く、とっさに切り替えて対応できないため、「○○するつもりだった、したかったのに」という心づもりが外れると、ハンドル(分からないものに名前をつけるなど、自分なりの秩序構成)をつけて操作しようとしていた世界の枠組みが一瞬、初期化されるようなショックを覚えて、inputどころではなくなる。

 

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 以上、六つの要因を述べた。

 

 冒頭場面において、コミュニケーションが封鎖されたわけはこうだ。

 会話力低下(5)の弱点によって話しことばを聞きとれなくなっても対処できるように、私は見えないvoice(音声)を筆記して視覚情報で補ったり、「模型」(この場合、古い保険証の両面をカラーコピーして貼り合わせたもの)を準備したりして、非常時に備えていた。にもかかわらず、事務員のことばを理解できずに、予想外の事態(6)の衝撃が加わった。

 事務員の、ことばを発する認識は、おそらく一瞬一瞬消えゆく「話し音楽(スピーチ・ミュージック)の一部になっており、事務員はその音律の中で、意味を即時的に流通させていた。そのことばから、私は停止して留まるイメージを掴みとれなかった。見えない情報は理解しづらい(4)の困難は大きくなった。

 こうした事態を把握しようとしたが、ことばが断片化する(2)の罠に落ちた。膨らむ思考を一遍にまとめることができず、過去の思考も現在の思考を圧迫して、記憶の複雑化(3)の中でもがいた。これ以上inputが入らない感覚飽和(1)に陥った。

 

 

 このように、要因が複雑に絡まりあってinputを阻害し、コミュニケーションの回路を封鎖させた。