マイノリティ・センス

自閉スペクトラム症の個人的な表現・分析(聴覚過敏多め)

スイレン

感情をみつめて(1) 爆発

「概念もカテゴリーも一般化もなく、個別的情報だけが存在する世界は、さぞかし生きづらいでしょう。感覚に押し寄せる膨大な断片的情報から逃れたくなり、(中略)大量のイメージを処理しきれなくなって暴発することも。」 「彼らの感情には、「ゼロ」と「最大」の二つしか設定がありません。あまりに感情の起伏が激しいために、感情が爆発しそうな状況を自ら避ける場合もあります。予想外の事態が起きて感情をコントロールできなくなるのが怖いからです。(中略)およそ状況と釣り合わないような激情にかられたりすることもあり、感情は、自閉症スペクトラム障害のある多くの子どもにとって御しがたいモンスターなのです。」 「感情が二、三種類しかなく、全開かゼロで、いつ暴発するともしれず、人間関係を促進するより妨げるような精神的枠組みをもつ自閉症スペクトラム障害のある人が、あまりうれしくない経験をたどることになるのは驚きに値しません。」 「感情があらゆる機能と密接につながっているタイプの子どもは、白か黒かの二者択一的思考パターンの傾向も強くなります。」 『自閉症スペクトラム障害のある人が才能をいかすための人間関係10のルール』より抜粋
 

感情が猛威をふるっていないときは、決して二者択一的思考パターンに陥ることなく、いまのようにある程度多角的に分析することができるのに、いったんこのモンスターにのみこまれると、悲惨な結果に陥ります。

過去のいやな場面を生々しい感情とともにありありと想起しているとき、選択と行動とイメージにつながる複数の思考回路は一瞬にして遮断され、たった一つの感情が見せる一筋の選択肢を、強い感情でもって、じっと睨んでいるのです。
それが、世界の全てであるかのように。
 
けれども、別の見方を知っていたときの、記憶の奥に押しやられた私が、頭の片隅で感じていたのは、自分が何かに操られるような恐怖でした。
視点を変えたいのは、思考を柔軟にしたいのはやまやまでした。
けれども、その場ではどうすることもできずに、目ごと頭ごと身体ははりつけられ、身動きがとれないのでした。
そして、張り裂けるような恐怖や怒り=感情の、奴隷になって、理性を失った猛獣さながら、檻に手をかけた人にとびかかりました。
 
「その美しい刺繍の裏面には、まったく違った模様があるよ。」
 
私はそれを、見たことがあったはずでした。
知っているはずなのに。学習したはずなのに。
刺繍の裏面にアクセスするための、これまで必死につけてきた分類記号も、インデックスも、タグも、結び紐も、全部ぐちゃぐちゃに外して、狂乱の檻の中に放り込みました。
目と耳に覆いをかけ、たった一つの認識だけを、世界に浮かび上がらせました。
そして何故、見たことがあるものを、見たことがあると、思い出せず、多くのものが見えるはずの目に、一つのものしか見えないのか、と恐怖と不安にとらわれながら、猛り立つ野獣のように、立ちはだかる檻に向かって、体当たりをくり返させたもの。
 
―――それが、私の「感情」でした。