マイノリティ・センス

自閉スペクトラム症の個人的な表現・分析(聴覚過敏多め)

スイレン

ヒキコモルートアドベンチャー 4 異種間戦争

 その時だった。

 

「うおっ、なんだこれ!?」

 

 細長くてクネクネした灰色の何かが光っていた。体調五十センチ以上あろうかというガタイの立派なが、頭だけを草むらに突っ込んで、胴体の三分の二を堤防道に晒していた。

 

 僕は冷や汗をかいて硬直したまま片膝をついた。

 

 ――待てよ……。これはまたとないチャンスだ。

 

 僕は恐竜という古代の神秘を骨から皮膚までこよなく愛していた。常日頃から爬虫類の形態に関心があり、鱗の形を調査するべく図鑑を眺めていたのである。

 

 蛇の腹にそおっと顔を近づけた。鱗の一枚一枚は尻尾へ向かう先端が四角く尖っている。粘液を含んだ皮膚は、陽光を受けて鋭く反射している。

 

 三竦みならぬ二竦みというのか。蛇も僕もお互いを意識したまま身じろぎしなかった。僕は膝の着地点を固定して、上半身を少しゆらゆらさせてみた。しかし、蛇は動かない。

 

 今まさに生命の気といおうか、目に見えない波動が生じている。この凍りついた空気。

 奴は気づいていながら、死んだフリを装っているのかもしれない。ボクは人畜無害ですという顔をして、必殺兵器の牙を一発お見舞いしてやろうと、一瞬の隙を窺っているのかも。牙が毒入りだったらタダでは済まない。人間に体の大きさは劣る小動物といえども、断じて油断は禁物である。

 

 いきなり顔めがけてジャンプしてきたらどうしよう? 僕の乏しい運動神経でガードしきれるだろうか?

 

 シミュレーションしてみよう。

 まず右腕を前に突き出し、急所を擁した胴体の盾とする。蛇は何か障害物きたとばかりシュルシュル巻き付く。次に、左腕で念入りにガードプラス。完璧だ。

 ――と、その時、右腕と左腕が交差したわずかな空隙から、爬虫類の最終兵器を搭載した邪悪な頭部が、ホモサピエンスの無防備なつるつるした顔をめがけて直撃する! いけない、顔はいけない!

 

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 僕の内なる想念と多大なる葛藤を知ってか知らずか、蛇はスルリと草むらに体を滑り込ませてしまった。

 

 ――ふーッ。助かった……。

 

 僕もさりげなく後ろへ下がった。絶妙のタイミングで、爬虫類とホモサピエンスの異種間戦争は回避された。お互い大事に至らずに済んだ。よかったよかった。